コラム

2014/01/519 勝海舟を強く育てた両親の姿

山岡鉄舟、高橋泥舟と共に「幕末の三舟」と呼ばれた勝海舟を知っていますか?
幕臣として江戸無血開城の任を果たし、明治維新後は参議、海軍卿、枢密院顧問として活躍した人物です。
勝海舟は、幕末の人物の中でも有数の「先見の明と度胸を持った男」であったと言われています。
坂本竜馬を弟子に持ち、非常に度量が大きな人でした。

そんな勝海舟が偉業を成し遂げた背景を知りたいとは思いませんか?
今回は、勝海舟の人格形成に大きな影響を与えた彼の両親の姿を追ってみたいと思います。

1823年、勝海舟は江戸の父・小吉の実家、男谷家で誕生しました。
幼名は麟太郎と言います。
父である小吉は、幕末ではおそらく「最強の数人に入るであろう剣客」だったと言われています。
小吉は手もつけられない暴れん坊でしたが、義理人情に厚く豪快で晴れ晴れとした人物でした。
そしてこの小吉こそが、勝海舟の人格形成に非常に大きな影響を与えたと語り継がれているのです。

勝小吉は「不良旗本」といわれ、自由奔放に生きる人でした。
しかし、彼は非常な交渉上手で胆力が備わっている魅力的な人物でした。
勝海舟はこのような父親の背中を見て緊迫した場面をうまく切り抜ける知恵を学び、卓越した交渉力を鍛えていったのでしょう。
興味ぶかいと思いませんか?

実家は貧しく、加えて祖母にも意地悪を言われるなど、海舟の幼年時代は決して恵まれているとは言えませんでした。
しかし彼は、破天荒ながらも立派な両親に支えられて健やかに成長します。

父である小吉は自身は貧困でありながら、人の世話をよくしました。
父親が子どもを思う心は、母親に劣らないということがよく分かるエピソードがあります。

勝海舟は9歳の時に生死にかかわる大けがをしたことがあります。
漢文を習いに行く途中、野良犬に襲われ、睾丸をかまれてしまったのです。
父は脚気という病気で寝込んでいたにも関わらず、連絡を受けるとすぐさま海舟のもとへ駆けつけました。
海舟は真っ青な顔をして息も絶え絶えでした。
医者も、
「命は助からないだろう」
と半分あきらめた様子でした。
しかし小吉は、大きな声で海舟を力いっぱい鼓舞しました。

「おまえは武士の子じゃ。犬などに負けてはならぬ!」

そして海舟を駕籠に乗せ、家へ連れて帰ったのです。
別の外科医を呼び寄せて、麻酔なしで傷口を縫いました。
海舟は激痛のあまりにぶるぶる震えていました。
この医者もまた、命が助かる見込みは薄いと答えました。
家じゅうの者は泣き出してしまいましたが、小吉は絶対にあきらめませんでした。
「バカやろう。こんなことぐらいで麟太郎が死ぬもんか!」
そう叫んで外へ飛び出し、裸になって、井戸水をくんでは頭からかぶり、息子が助かるように必死に願ったそうです。

苦しそうに唸る海舟を裸のままで抱きかかえて、
「麟太郎、死ぬなよ。父がついているぞ。がんばれ」
と励まし続けたと言います。

父は毎日井戸水をかぶり息子を抱きしめ励ましました。
こんな必死の看病を、海舟が元気になるまでなんと七十日も続けたというのだから驚きですよね。
「自分をこれほど大事に思ってくれる父がいる」
そんな安心感は海舟の心に深く刻まれ、彼を強くしたことでしょう。

彼の強い心を育てたのは小吉の教育だけではありません。
彼の母であるのぶの姿も大きな影響を与えていました。
母であるのぶもまた、非常に胆の据わった女性でした。

破天荒な父親である小吉は女性関係で問題を起こすこともありました。
彼が起こした問題をのぶに打ち明けたとき、のぶは
「私が何とかします」
と遺書を書き脇差を携えて相手方の家に単身で乗り込もうとしたそうです。
小吉が
「やめてくれ」
と謝り事なきを得ましたが、由緒ある家柄の出であるのぶは両親から人生の修羅場をくぐり抜ける胆力を学んでいたのでした。

このように人並み外れて胆の据わった両親の背中を見て勝海舟の強さは育てられたのでしょう。
勝海舟は後に、父の小吉についてこのように語ったそうです。

「私の父親は、喧嘩が上手かった。
あんな風に胸のすく喧嘩は、なかなかできるものではない。
借金を頼まれると、なけなしの銭も、ポンと放り出してしまう。
だからいつも貧乏だったが、それでも父は立派であった」

このエピソードからは、彼が父である小吉のことを破天荒ながらも非常に尊敬していたことがわかりますね。

勝海舟はこんな名言を残しています。

男児世に処する、ただ誠心誠意をもって現在に応ずるだけのこと。
あてにもならない後世の歴史が、狂と言おうが、賊と言おうが、そんな事は構うものか。

こんな名言からも、勝海舟がいかに両親から受け継いだ胆力の備わった人物であったかがうかがえます。
勝海舟の強さは、両親の背中を見て育てられたのですね。

コペル 代表 大坪信之

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