先日、16万人の脳画像を見てきた脳医学者・瀧靖之教授(東北大学)と、コペル代表講師・大坪可奈が「発達を促す親の関わり方」について対談を行いました。
1.ほめることと脳の発達の関係
- 可奈
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私はコペルで、お母さん向けの「ペアレントセラピスト講座」を行っています。その理由として、「子どもはほめた方がいい、子どもの自己肯定感を高めたい、とても愛している」というお母さんなのに、なかなか子どもに伝わらない、自分が悪いと責めてしまうお母さんがたくさんいらっしゃるからです。
子どもに直接働きかけるレッスンはうまくいくのですが、家に帰っての時間の方が長いので、親子関係はとても重要なのではないかということで講座を行っています。
- 瀧
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なるほど。
- 可奈
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そこで、先生に「ほめる」ということが子どもにとっていかに重要であるのかについて詳しくお伺いしたいと思います。
- 瀧
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子どもたちはほめられると喜ぶ、うれしいというのは当たり前ですが、「良好な親子関係は脳の発達にもいいのか」という研究をしました。
ほめられる頻度が多い子どもたちの脳がどうなっているかを調べると、脳のいくつかの領域(特に感情に関わる領域)で発達がより進んでいたということがわかりました。
- 可奈
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やっぱりそうなんですね。
- 瀧
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逆もありまして、虐待を受けた子どもたちは、心も体も脳も発達が遅れるということがわかったんです。
ネガティブな環境に置けば置くほど発達が遅れ、ポジティブな親子関係、例えば、子どもたちががんばった時に親がほめるということは、脳の発達にもいいと。
2.親の自己肯定感の重要性
- 可奈
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そういうお話を聞くと、これからの子どもたちのためには、お母さんにぜひ実践していただきたいと思うのですが、現実的にどういうことをしていけばいいのでしょうか。
自己肯定感が高い子は、認知能力・非認知能力ともに高いというのは実感していますが、お母さんの自己肯定感が上がらないとなかなか難しいのかなと思います。
そこで講座の中では、基本的な子どもとの関り方もお伝えするのですが、話を聞いて共感するということに大半の時間を取っています。
- 瀧
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非常に興味深いですね。子どもたちがいろんな能力を獲得するのは、基本的には「模倣」なんです。子どもたちの模倣の一番身近な相手は親ですね。
つまり、子どもたちの自己肯定感を高めるためにどうしたらいいかというと、親の自己肯定感をいかに高めるかに行きつくわけです。
- 可奈
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そのうえで私が気をつけていることは、共感することと自分で自分をほめること、また周りがそれを認めることなのですが、先生の方からアドバイスはございますか。
3.自己肯定感が高い人の共通点
- 瀧
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自己肯定感が高い方々、低い方々、いろいろな方とお会いして思うことは、自己肯定感が高い方々は、ナンバーワンよりもオンリーワンを目指すというのはすごく感じます。
- 可奈
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すごく勉強になります。
- 瀧
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一方でそうじゃない方々というのは、より競争する方に行っている、ナンバーワンを目指している方が多い気がします。オンリーワンを目指されている方というのは、比較する相手がいないんです。
私もそうなのですが、自分と同じことをやっている人が他にいないので比べようがないんです。比べようがなかったら自己肯定感も下がりようがないんです。
- 可奈
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講座の中では、自分の得意なことを思い出して書くということもしています。
- 瀧
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それも素晴らしくいいです。人って1万人いたら1万通りの人生とか価値観があって、同じ人っていないじゃないですか。
そうすると、自分はこれなら人よりもまさっているというのは絶対にあるんですよ。これが好きだなとか得意だなとか、どんな小さなことでもいいので。
- 可奈
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自分の得意なところに注目できるようになると、子どもの得意なところにも注目できるようになるんですね。
- 瀧
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まさにそうですね。
- 可奈
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そうすると正のスパイラルに入りますね。
- 瀧
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人っていうのは、才能の塊みたいなものなんです。私はどなたにお会いしても、自分より優れているところが必ず一個二個見えるんですよ。
それぞれの方が素晴らしい何かを持っているので、そこに保護者の方が気づけば必ず子どもにも返っていくと思います。
- 可奈
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そのことにまた注意してやっていきたいと思います。
- 瀧
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子どもたちの自己肯定感、そしてその基盤にある親の自己肯定感を高めることがすごく大事です。大人が思うように生きていけば必ず子どもにつながりますからね。
- 可奈
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幸せな親子が増えれば世の中が変わっていくと思います。
- 瀧
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私もそう思います。
- 可奈
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はい。貴重なお時間をありがとうございました。
4.インタビュー動画
瀧 靖之(たき やすゆき)
Yasuyuki Taki
医師。医学博士。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター教授。東北大学加齢医学研究所 機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。16万人の脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍している。著書『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ』は、10万部を突破するベストセラーとなっている。
大坪 可奈(おおつぼ かな)
Kana Otsubo
幼児教室コペル代表講師。ペアレントセラピスト主宰。幼児教室コペルの代表講師として、28年間でのべ3,000人以上の子どもたちと保護者を指導。近年は、日本全国や中国での子育てセミナーが人気を集めている。大坪信之との共著『自己肯定感を高める最強の子育て』が好評発売中。