コラム 大坪信之のワンポイント徳育アドバイス

2022/03/20これから求められる「ニューエリート」とは

米サンフランシスコに、ホルバートン・スクールという卒業生がグーグルやフェイスブックなどから引き合いが殺到する学校があります。

ソフトウェアエンジニアを育成するいわば専門学校ですが、そこには教科書もなければ教師もいません。それどころか、入学金も学費もありません。その代わりに卒業生は、卒業後3年間、給与の17%を同社に支払います。

また、正式な教師を雇用することや、講義を行うこともありません。ほとんどのカリキュラムは、生徒が特定のプロジェクトに取り組むことや、お互いに教え合うことで成り立っています。

同校は、この授業料無料のビジネスモデルを通して、教育を受けられないような層に機会を提供したいと考えています。

必要なスキルは、現在進行中のプロジェクトに参加することで、アウトプットと同時に学んでいきます。分からないことがあったら、各生徒に付く「メンター」に聞くことになっています。

メンターは、グーグル、リンクトイン、IBM、ウーバーなどの現役エンジニアばかりです。もっとも、メンターは「こうしたほうがいい」なんていう“正解”は教えてくれません。そもそもプロジェクトの成功に正解はありません。

Learn how to learn(学び方を学ぶ)──。つまり、こんな事例を参照したらどうかといったアドバイスや、誰々さんに聞いてみればどうかといったヒントをくれるだけです。

プログラミングの世界は日進月歩ですから、数年かけて学校を卒業した頃には知識が古くなっています。それより価値があるのは、分からない問題に直面したときに『学び方を知っている』ことだといいます。

グーグルで人材開発のリーダーを務め、『ニューエリート』の著者でもあるピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、有名大学の学位保有という名誉、固定化された地位といった“旧エリート”の特性は、今急速に価値を失いつつあると指摘します。

「モノを収穫していた生産経済の時代は肉体労働が主で、働く人には服従と勤勉が求められました。次のナリッジエコノミー(知識を基盤とした経済)の時代になると、専門性や知恵が求められるようになりました。ところが今やこれもアウトソーシングで事足ります。これからの働き方のステージは、クリエイティブエコノミーです。そして、この時代に生きる人材は、ゼロから新しい価値を生み出す情熱、創造性、率先が必要になるのです」(グジバチ氏)

常に次の可能性に備え、どんな時代でも生きていける人材こそが、「ニューエリート」の条件だというのです。

日本政府も暗記型の詰め込み(インプット)主義ではなく、アウトプットにつなげる活用主義の学校教育改革に舵を切りだしています。

2020年には小学校、2021年には中学校、2022年には高等学校の学習指導要領が変わります。

今までの学習指導要領には「何を学ぶか」しか書いていなかったのに対し、「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」が加わることで、「学び」と「アウトプット」がより近接した実践的な学習を目指すようになります。

2024年には、大学入試センター試験は「大学入学者学力評価テスト」に変更され、自らの考えを展開する記述式問題中心になることが決まっています。

大学によっては、少子化時代の生き残り策として、より優秀な生徒を獲得するため、筆記試験に加え、エッセイの提出や面接、グループディスカッションなどを検討するケースも増えると思われます。

今後は、大人も子どもも関係なく、仕事と学びと、そして遊びを含めた体験や人生そのものが一体化し、その人の価値や魅力を形成することになるはずです。

つまり、人間力も含めた生き方そのものが問われる時代になっていくのですね!